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1、武州佐野の次郎左衛門は、真面目な商人だったが、生れながらの醜い顔に痣があった。
2、この痣が彼の人生を狂わせたといえる。
3、幾度目かの見合いの帰り、さそいにのって次郎左衛門は吉原の門をくぐった。
4、一夜、遊女玉鶴の情けを受けた。
5、「心の中まで、痣があるわけはないでしょ」この言葉を次郎左衛門は忘れることができなかった。
6、が、玉鶴はいやしい遊女で、栄之丞というやくざの情夫があり、太夫の位に憧れを抱いていた。
7、次郎左衛門は吉原に居続けする上、引手茶屋の女将に五十両預けて女の身請けを夢みるようになった。
8、玉鶴に太夫の位をねだられて、夫婦約束の上承知した。
9、折から、信州一円に雹が降り、桑の木が潰滅、下請け業者の生死にかかわる事態となった。
10、武州に帰った次郎左衛門は、思案のあげく、捨て児時代の守り刀を手離すことに決めた。
11、その金で玉鶴を妻に迎え、故郷に帰って仕事に精を出すつもりだった。
12、しか... (展开全部) 武州佐野の次郎左衛門は、真面目な商人だったが、生れながらの醜い顔に痣があった。
13、この痣が彼の人生を狂わせたといえる。
14、幾度目かの見合いの帰り、さそいにのって次郎左衛門は吉原の門をくぐった。
15、一夜、遊女玉鶴の情けを受けた。
16、「心の中まで、痣があるわけはないでしょ」この言葉を次郎左衛門は忘れることができなかった。
17、が、玉鶴はいやしい遊女で、栄之丞というやくざの情夫があり、太夫の位に憧れを抱いていた。
18、次郎左衛門は吉原に居続けする上、引手茶屋の女将に五十両預けて女の身請けを夢みるようになった。
19、玉鶴に太夫の位をねだられて、夫婦約束の上承知した。
20、折から、信州一円に雹が降り、桑の木が潰滅、下請け業者の生死にかかわる事態となった。
21、武州に帰った次郎左衛門は、思案のあげく、捨て児時代の守り刀を手離すことに決めた。
22、その金で玉鶴を妻に迎え、故郷に帰って仕事に精を出すつもりだった。
23、しかし、兵庫屋に駈けつけてみると、すでに二代目八つ橋太夫の襲名が内定していた。
24、玉鶴の本音を聞いた。
25、次郎左衛門は一旦武州に帰り、家屋、身代を一切整理して再び吉原にきた。
26、兵庫屋の表は黒山の人だかり、二代目八ツ橋の玉鶴が豪華な盛装で現われた。
27、出世披露目の道中で、次郎左衛門が行列の群に飛びこんだ。
28、その右手には村正が握られていた。
29、あっという間に男衆を斬った。
30、うろたえまわる女を、男を、次々に斬った。
31、八ツ橋を追い、一太刀斬り下げた。
32、彼女の死体のそばで、次郎左衛門は叫び続けた。
33、「寄るな、この女に手を触れるな、これはわしの女房だ、わしの女房だ……」。
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